Mayのブログ

読んだ本についての感想など。

パンとスープとネコ日和「今日もお疲れさま」 群ようこ

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今回は(私にしては)いつもよりちょっぴり長めの、気合いの入ったブログです。

…いや、いつもテキトーという訳ではないのですが…(^_^;)


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この小説は、1話完結型のシリーズ「パンとスープとネコ日和」の、5作めの作品になります。

主人公は、スープとサンドイッチのお店を営むアキコさん。

そして、お店の従業員しまちゃんと、そのパートナーのシオちゃん、向かいの喫茶店のママさんなどが主な登場人物です。

シリーズ作品は、読者が登場人物を身近に感じるところに良さがあると思います。

私はそういう小説を読むと、まるでよく知った…、でも、しばらく会っていない友達の近況報告を読んでるみたいな感想を持つ事があります。

この場合、アキコさんが私の友達という事になるのでしょうか。

…なんて考えながら、本当にアキコさんみたいな友達がいたらいいなあと思ったりします。

彼女は、芯がしっかりしているけれども、控えめで心優しい女性です。

例えば大変な時は無理せずに休み、お店で提供するスープとサンドイッチはテイクアウトにしないという考えに、まわりに流されないしっかりした性格の持ち主である事を感じます。

それでいて、お世話になっているパン屋の奥さんが腰を痛めたと聞くと、まるで我が事のように心配するところに優しさを感じます。

従業員のしまちゃんに対しては、「頑張らなくていいのよ。」と、気づかったりもします。

しまちゃんは学生時代、ソフトボールの強豪校で万年補欠だったという、しょっぱい過去を持つ、元気で働き者の女の子です。

パートナーであるシオちゃんとは事実婚です。

しまちゃんは、シオちゃんに対して冷たいのですが、アキコさんは2人の仲を心配しつつも、自分が思った事を控えめに言う程度で、でしゃばるような事はありません。

そして、しまちゃんもとても素敵な女の子です。

シオちゃんに冷たいのは、「甘やかさない」と、いう考え方からのようで、自分にも身内にも厳しい彼女だからこそかな?と、思われます。

けれども、さすがにこれはやりすぎでは?…と、思えるくらい、シオちゃんに対して冷たい時もありますが、私はなんとなくしまちゃんの気持ちも分かるので、

もしかしたら、自分も彼女と似たようなところがあるのかもしれないな、と、思ったりします。

向かいの喫茶店のママさんは、お店の経営者としても人生の先輩としても、アキコさんを見守ってくれてる存在です。

すぐお店を休みにするアキコさんに、ひやかしの言葉を言ったり、ちょっと言葉がきつい時もあるけど、本当はアキコさんの人柄に好感を持っていて、何かと助けてくれる人です。

この小説を読んでいると、特に有名でもない普通の人でもいろんな人がいて、いろんな出来事があるんだなあとしみじみ思います。

アキコさんとしまちゃんの、気心がしれているようで、それでいてお互いを気遣うような会話には、2人の心の美しさを感じて涙が出そうになるほどです。

あと、タイトルにある通り、ネコがちょいちょい出てくるところにはほのぼのさせられます︎。

読むたびに心がホッと暖かくなる…。
そんな小説です☺️☕𓈒𓏸︎︎︎︎


#パンとスープとネコ日和

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「ゴールデンカムイ」 野田サトル

9月20日まで「となりのヤングジャンプ」で無料公開していた「ゴールデンカムイ」。

北海道を舞台にしたこの壮大な物語は、函館出身の私にとっては特に胸に刺さるものでした。

ストーリーのざっくり説明をすると、

日露戦争からの帰還兵、杉元佐一とアイヌの少女が手を組んで、網走監獄から脱獄した囚人たちの背中に彫られた埋蔵金の在処を示す刺青を集めて一攫千金を狙う物語です。


登場人物には囚人や軍人が多く、基本的に「頭のおかしな人」ばかりだな…と、思いました。

また、史実を元にした仰天エピソードは、

「いや、まさかそれはないっしょ💦」

と、思わず北海道弁でツッコミを入れたくなるところもありましたが、

「漫画だしフィクションだしギャグだし。」

と、思いながら、あまり深く追求せずに楽しめました。

とはいえ、そんなふざけた内容ばかりではなく、アイヌが大切にする「カムイ」を知る事で、私たち日本人が忘れてしまった大自然への畏敬の念について考えさせられたりもします。

ストーリー全体を通してみると、

埋蔵金を見つけ出すために昨日は敵だった者と手を組んだりの心理戦や、仲間の裏切り、囚人たちの不幸な生い立ちなど、見どころは盛り盛りだと思います。

血なまぐさい戦闘シーンも多いけど、それは大切な人たちの暮らしを守るためで、違う民族とも、お互い協力し合う事の大切さについてのメッセージが込められていたように思えます。

「九十八歳。戦いやまず日は暮れず」 佐藤愛子

初めて佐藤愛子先生の作品を読んだのは、中学生くらいの時です。

もう題名などは忘れてしまったのですが、日常の出来事や、憤怒の体験などを面白おかしく綴ったエッセイでした。

それ以来、佐藤先生の本を度々読んでいます。

初めて読んでから、考えるともう、かれこれ30年以上になります。

長いなあ…と、思ったら、佐藤先生も(もうすぐ)九十八歳なのだとハッとしました。

本書「九十八歳。戦いやまず日は暮れず」は、そんな佐藤先生の年齢を感じさせるエピソードが満載でした。

ご自身の体調の事、病院での出来事。

そして、子どもの頃の思い出などに関しては、今の日本とはかけ離れた、歴史上の出来事のような、不思議なノスタルジーのようなものを感じました。

とはいえ、そんなぬるい事ばかりが書かれている訳でもありません。

一瞬、若い頃の佐藤先生が戻ったような、鋭い文章に出会ったりします。

例えば、
「こんにゃくに「お」なんかつけるな!」と怒ったり、
虐待で我が子を死なせた父親の事を
「この父親はヘンタイである。」
と、きっぱり言い切ったりなどがそうです。

やはり佐藤先生は佐藤先生だなあと思ったりします。

ただやはり、お歳はお歳です。

この本の結びの言葉、
「みなさん、さようなら。ご機嫌よう。ご挨拶して罷り去ります。」には、

本当に

これでさようならは寂しいなあ。

…と、思いました。

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「越境者」 C・J・ボックス

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お馴染みのジョー・ピケットシリーズ、第14弾です。

私は全部の巻を読んだ訳ではないのですが、ここまでくると多くの登場人物に親しみを感じるようになり、

その事がストーリーをさらに面白くしているのではないかと考えます。


主人公のジョー・ピケットは、猟区管理官の仕事を愛する真面目すぎるほどの仕事人間です。

そして、そんな彼を気に入っているのがワシントン州知事のルーロンで、

今回ジョーピケットは、ルーロン知事から、ある大金持ちの男の身辺調査を依頼されます。

この大金持ちの男は、果たして善人なのか悪人なのか?…という謎が、先へ先へと読み進めたくなるポイントかなと思いました。

それ以外に、私がこのシリーズを読んでいていつも感じる事があります。

それは、

登場人物の言葉に作者の思いが込められていたり、ストーリーにアメリカの社会問題が隠されているのではないかという事です。

多くの小説がそうなのかもしれませんが、このシリーズでは特に強くそう感じるのです。

他に読みどころと言えば、ジョーと、彼の親友ネイトとの関係だと思います。

ネイトは過去にいろいろあって、連邦政府に追われている身です。

なので普段はジョーと会うこともなければ連絡先すら知らせていません。

これまでネイトは、ジョーのピンチを何度も救ってきました。

そして今回も例外ではなく、ネイトとジョーがお互いの気配を感じながら行動する場面は、ちょっと胸熱でした。

ジョーとネイト、男同士の友情もこのシリーズの読みどころだと思います。
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「震える牛」 相場英雄

最初はレイチェル・カーソンの「沈黙の春」のような、環境破壊に警鐘を鳴らす本かと思いました。

ですが、そうではなく、ミステリーでした。

ミステリーとはいえ、日本の社会問題を描いた、骨太なミステリーです。

ここで描かれた社会問題とは、日本の地方に起こる、大型商業施設の進出によるシャッター商店街の増加や、巨大組織の隠蔽体質などです。


ストーリーは、47歳の警部補が、2年前の未解決事件を再捜査するところから始まります。

2人の男性が殺害されるという事件で、捜査が進むにつれ、日本社会の歪みが見えてきます。

事件を追う昔気質な警部補に好感が持てる一方で、過ちを犯す人間にも共感できる部分があり、

「本当に正しいと言える事とは何だろう?」と、一瞬迷うような内容です。

この本の「震える牛」というタイトルは、そのまま牛の恐ろしい病気、BSEの事を表していると思います。

実際の日本社会でも、この本の中でも、BSEは日本の問題点を浮き彫りにしました。


でも私は、本当にこの作者さんが読者に伝えたかった事は、本編以外のプロローグとエピローグにあるのではないかと言う気がしてなりません。

そこには、人間がお互いを信頼し合う事の大切さが暗に書かれているのではないかと思いました。
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「エブリシング・フロウズ」 津村記久子

津村記久子さんは最近知った中で1番好きな作家さんです。

この作者さんのどういうところが好きなのかというと、
「日常のあるある」や「ちょっとヘンだけど有り得なくもない事」が、小説に生かされているからです。

あとは、少しクールな感じの主人公が多いところとか…。


この「エブリシング・フロウズ」は、中学3年生の主人公ヒロシの1年間を切り取ったような小説です。

同じクラスでイケメンと言えなくもないヤザワとなんとなくつるむようになり、

塾で知り合った他校の知り合いや、

文化祭の準備をする係で親しくなった同じクラスの女子など、

人間関係を中心にストーリーが展開していると思います。

ヤザワがちょっとした事件にまきこまれたり、クラスの女子が家庭の悩みを抱えていたりで、

今の中学生に「なさそうでありそうな出来事」が起こります。

そしてそれらの出来事に対して、いろいろ考えながら慎重に対処していくヒロシが好ましかったです。

多くの人にとって中学生時代は人生のほんの一部分で、大人になったら忘れてしまう事も多いけれど、それでも無くてもいい訳じゃない大切な一部分なのだな。
と、ヒロシを通じて思いました。

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「死の島」 小池真理子

小池真理子さんは昔から好きな作家さんです。

昔はミステリー、その後、恋愛小説へと作風が変わったなという印象が強いのですが、
この「死の島」という小説は、そのどちらでもありません。

「死」に直面した人間の心理を深く追求した小説です。

小池真理子さんの小説は、ミステリーでも恋愛小説でも、心理描写の巧みさやストーリーの進め方の上手さは変わらないので、どんな作風でも読み応えがあります。

この「死の島」という小説は、
末期ガンの主人公が病気を理由に講師の仕事を辞め、生徒だった若い女性と親しくなり、そして亡くなる、というストーリーです。

この主人公と若い女性はどこまでも講師と生徒であり、恋愛とはほど遠い関係です。

私は、女性が若く生命力に溢れる一方で、主人公は死に向かう老人であるところになんとも言えない寂しさを感じました。


白石一文さんがこの小説の解説を書かれていましたが、白石さんも小池さんの小説がお好きなのだなあと感じられ、解説の内容に好感が持てました。

解説の最後に、この小説を上梓した直後に、小池さんは夫の藤田宜永さんが末期ガンである事を知らされた、と書いてあり、
順番が逆だと思っていた私は、
そうだったのかと、不思議な気持ちになりました。