最初はレイチェル・カーソンの「沈黙の春」のような、環境破壊に警鐘を鳴らす本かと思いました。
ですが、そうではなく、ミステリーでした。
ミステリーとはいえ、日本の社会問題を描いた、骨太なミステリーです。
ここで描かれた社会問題とは、日本の地方に起こる、大型商業施設の進出によるシャッター商店街の増加や、巨大組織の隠蔽体質などです。
ストーリーは、47歳の警部補が、2年前の未解決事件を再捜査するところから始まります。
2人の男性が殺害されるという事件で、捜査が進むにつれ、日本社会の歪みが見えてきます。
事件を追う昔気質な警部補に好感が持てる一方で、過ちを犯す人間にも共感できる部分があり、
「本当に正しいと言える事とは何だろう?」と、一瞬迷うような内容です。
この本の「震える牛」というタイトルは、そのまま牛の恐ろしい病気、BSEの事を表していると思います。
実際の日本社会でも、この本の中でも、BSEは日本の問題点を浮き彫りにしました。
でも私は、本当にこの作者さんが読者に伝えたかった事は、本編以外のプロローグとエピローグにあるのではないかと言う気がしてなりません。
そこには、人間がお互いを信頼し合う事の大切さが暗に書かれているのではないかと思いました。