Mayのブログ

読んだ本についての感想など。

「小さいおうち」 中島京子

この物語は、女中奉公をしていたタキさんが、若い頃の事を書いた覚え書きを中心に進行します。

そして、覚え書きの読者として親戚の大学生が登場します。

タキさんが、覚え書きに書いている「小さいおうち」に奉公していたのは、昭和の始め頃です。
東京大空襲の前にそこを辞めて、田舎に帰っています。

なので物語全体の印象は、昭和の古き良き時代を感じさせるほのぼのとしたものでした。

が、実はその影に、様々な社会問題……
例えば「表現の自由」や「女性問題」などが潜んでいたと思います。

因みにこの作品は映画化されていて、Amazonのプライムビデオでのコメント欄には、「超一流のプロバカンダ作品」などと書かれていました。

けれども私はそうは思いません。

プロバカンダはそのように悪用する人がいるからプロバカンダになるのであって、この作品に限っては、作家が素直に思った事を文章にし、映画がその世界を丁寧に描いただけだと思いました。

それはさておき、この小説では、タキさんの奉公先の若奥様がとても魅力的です。

おしゃれで美しくお祭りが大好きな華やかな人だけど、言葉遣い丁寧なせいか、私にはおっとりした女性に感じられました。

でも、私が若奥様に1番魅力を感じたのは、辛い出来事にも涙を見せないところです。

そして、そんな若奥様をいつも近くで見ているタキさんの、「」書きにも()書きにも表現する事のできない「想い」
……が、なんとも切なく、この物語の全部なのではないかと思うのです。