「発火点」 C・J・ボックス
アメリカの作家、C・J・ボックスさんの
「猟区管理官ジョーピケットシリーズ」最新作です。
シリーズものとはいえ独立したストーリーなので、この巻だけを読んでも十分楽しめる内容になっていますが、登場人物の把握のためには他の巻も読んだ方がより楽しめるかなとは思います。
主人公ジョーピケットは、妻と3人の娘を愛する
猟区管理官です。
猟区管理官の仕事は、自然環境の保護やハンターの違法行為の取り締まりなどです。
悪質なハンターを逮捕する権限もあり、時には事件に巻き込まれる事もあります。
今回のこの「発火点」では、ジョーピケットと連邦政府の職員とで山に逃げ込んだ殺人犯の捜索にあたります。
見どころは政府関係者の感じの悪さと山火事の大迫力と言ったところでしょうか。
…と、一言では言いきれない、アメリカ社会の問題点も描かれていると思います。
私が大好きな登場人物ネイト・ノマロウスキの、「社会を動かしている特権階級の能なし官僚ほどひどいものはこの世にない。……」という言葉に作者の気持ちが要約されているような気がするのです。
「言い訳だらけの人生」 平安寿子
「鬼滅の刃」という漫画が今すごい人気だけど、思うに「鬼滅」は普段漫画やアニメに興味がない人々の方が熱中していて、普段から漫画やアニメが好きな人にとっては「フツーにいい。」くらいじゃないかなぁ。
大体「鬼滅」の原作の絵って………。
…なんて、私もなかなか漫画やアニメについて語るなあ(^_^;)
平安寿子さんの「言い訳だらけの人生」という本の中でも、アラフィフのおじさん達が、子どもの頃に好きだったアニメについて語ってます。
アニメを通じて自分の人生を振り返ったり、今の自分について考えたり。
登場人物は、家電メーカーに勤める修司、会社経営に失敗して自己破産した和彦、地元でガス設備会社に勤務する達也の3人です。
共通の知人の葬儀で再開します。
彼らの好きなアニメは「ガンダム」です。
彼らの語るガンダムは、キャラ設定やストーリーについての考察が深く、この本を読みながら私も「え、そんな深い内容だったの?」と、思う事もしばしばでした。
でも、たかがアニメでしょう?
興味のない人にはそう思えるかもしれません。
はっきり言って、この本の登場人物の肩書きはパッとしません。
お金持ちでも有名でもないフツーの人です。
そんな彼らが心に秘める「男のロマン」みたいなものが「ガンダム」なのかなあと思いました。
サラリーマンの修司は、こんな事を考えるのです。
「小さい、この世ならぬもので、つかのま、ほっとする。そんな気晴らしをつなぎ合わせて生き延びるさ。」と。
この言葉がすごく印象に残りました。
ああ、私と同じだなあと思ったからだと思います。
「グラスホッパー」「マリアビートル」「AX アックス」 伊坂幸太郎
この3冊の本には、殺し屋が活躍する物語という共通点があります。
「グラスホッパー」の主人公が「マリアビートル」にチョイ役で出ていたり、「マリアビートル」の登場人物が「AX アックス」にチョイ役で出ていたりするので、伊坂幸太郎さんの作品の中で「殺し屋」シリーズとして認知されているようです。
とはいえそれぞれ独立した物語なので、3冊全部読まなくてもそれぞれで楽しめます。
私は「グラスホッパー」について、
ハラハラドキドキの展開ではあるものの、命を軽視している印象があり、読んでいてちょっと暗い気持ちになりました。
まあでもそれは私個人の問題だと思います。
で、次の「マリアビートル」について、
この作品は、ハリウッドで映画化される事が決定しています。(グラスホッパーは日本で映画化されてますが)
主人公の殺し屋が面白いのです。
「ダイ・ハード」という映画の主役に似ていると思います。
つまり、とても不運なのです。
そんな主人公を演じるのはブラッド・ピットさん。↓
https://news.yahoo.co.jp/articles/f91a93e3055cdeb4c5af4b86cca11ab0d1e6335f
原作のストーリーでは、サイコパスの少年が殺し屋を翻弄し、ハラハラさせられる内容です。
こちらは「命を軽視」という小難しい事は抜きにして、エンターテインメントとして楽しめました。
最後「AX アックス」について、私はシリーズの中ではこの作品が1番好きです。
主人公はやっぱり殺し屋なのですが、その事について罪悪感を抱え、常に辞めよう辞めようとしながらも辞められないでいます。
奥様に頭が上がらず、家族のために、家族を守ろうと必死なところがいいなあと思います。
そして、「自分、友達いないなあ。」なんて、ふと気づいてしまうところが可愛いのです。
主人公が好きだからこの作品が1番好きなのだと思いました。
私が何故この3冊の感想をまとめて書きたくなったのかと言うと、「グラスホッパー」「マリアビートル」「AX アックス」と、順番に読んでいく中で、なにか、物語の「死生観」のようなものに変化が感じられたからです。
それを私は訴えたかった!(`•ω•′)✧︎
でも、最後が「AX アックス」で良かったなあ。
ちょっと泣いちゃったよ。と、思いました。
#名刺代わりの小説10選
Twitterの読書垢さんの間で、たびたび「#名刺代わりの小説10選」というハッシュタグを見かけます。
これは、このハッシュタグを付けて自分の好きな本を10冊書くものです。
私も以前書かせていただきました。
その時書いたのは以下の通りです。
・星の王子さま/サン・テグジュペリ
・小説智恵子抄/佐藤春夫
・深夜特急/沢木耕太郎
・血脈/佐藤愛子
・パンとスープと猫びより/群ようこ
・ZOO 1 、2/乙一
・私は存在が空気/中田栄一
・殺したのは私/メアリ・H・クラーク
・復讐のトレイル/C・Jボックス
・冬の伽藍/小池真理子
確かこの10冊を書いたと思います。
これらの本たちは、今までの私の心の拠り所であり、これからもずっとそうであるに違いない本たちです。
もう、1冊1冊の良さを熱く語りたいところなのですが、それをやると長くなっちゃうので今はやめておきます。
他の読書垢さん達の10選を見ていると、私の知らない本や作家さんについての書き込みがいっぱいあります。
もしかしたら、そういう本の中に、私も10選に入れたくなるものがあるのかも…?と、思う時があります。
そして、
「世の中には私の知らない本たちがまだまだたくさんあるんだなあ…。」と、考えたりしてワクワクしてしまうのです(^^)
「スニヨンの一生」 佐藤愛子
この本の主役である「スニヨン」は、
1918年に台湾で生まれ、1979年に亡くなっています。
25歳で中村輝夫と名前を変え、日本兵として
モロタイ島で戦い、
そして
日本の敗戦で戦争が終わった後、モロタイ島にひとり取り残され、30年後に発見されるという、
実在の人物です。
この本は、そんなスニヨンについて、関係者の証言を集めたり、当時の事について書かれた新聞記事や手記を引用して作られています。
そのせいか内容にとりとめがなく、読んだ後にまとまった感想が思いつきませんでした。
と、言う訳で、とぎれとぎれになってしまった感想ですが、それをいくつか書いていきたいと思います。
「スニヨン」は、戦時中には「中村輝夫」
戦後には「李光輝」(リクワンホエ)と、名前が2回変わっています。
本書で、「スニヨンの一生」と、「スニヨン」という最初の名前をタイトルに使っているのは、それは何故か?
それは…、
李光輝が亡くなった時、最後に奥さんが「スニヨン!スニヨン!」と呼んだからかな?と思いました。
また、10年間彼を待ち続けて再婚した彼の奥さん。「李蘭英」さんについて、
再婚相手と戻ってきた元夫とはゴタゴタします。
それでも、奥さんは李光輝が帰ってきてとても嬉しそうでした。
それを私は、「乙女心かな?」と、思いました。
台湾の人々の証言は全然洗練されていなくて、その事が余計に心の中をそのまま見ているような、不思議な迫力があるなあと思いました。
李光輝が、記者から
「30年間取り残されたのは無駄な時間だったと思うか?」と、質問を受けた時、
「なにが?」と、怒ったような声で反問したあと、
「おくにのために行ったんじゃないか………しょうがないじゃないか。」と、言ったのが印象的でした。
…などなどが、私のとりとめのない感想です。
戦争の話になると「もう二度と戦争をしてはいけない!日本人は反省しなければ!」
という考えがセットになる事もあります。
でも、本書ではそんな教訓めいたものは一切感じられず、
ただ、激動の時代を懸命に生きた人々の、ありのままの姿を伝えたい、という作者の想いを感じました。
※この本は、私が主人に「超お高いの!」と、愚痴ったら、安く売ってるサイトを見つけて買ってくれた本です。感謝感謝😊💕
「銀河に口笛」 朱川湊人
ひとことで言えば「子供の頃をノスタルジックに思い出せる小説」です。
ですがそれ以外の要素も混ざっていて、ちょっと余計では…?と、感じるところもありました。
それは、物語の合間に「キミ」と語りかけながら、主人公が昔の事を回想するところです。
「キミ」という呼び方も不自然に感じたし、「キミ」は別に不思議な存在でなくても良かったのでは?とも感じました。
(逆にこれがイイと思う人もいると思いますが…。)
ストーリーのざっくり説明はこうです。
主人公のモッチは、小学3年生の男の子で、同じ年の友達(リンダ、ニシ、エムイチ、ムー坊、ミハル)と「ウルトラマリン隊」を結成し、困り事などの依頼を受けてそれを解決する活動をはじめます。
困り事とは、猫さがしとか、人探しモノ探し、夜中に風鈴を鳴らしながら歩きまわる不審者の調査などです。
あっさり解決できた事もあれば、そうではなかった事も…。
それらのエピソードは、それぞれとても良くできていて読み応えがありしました。
昭和の子供ってこうだったなあと自分と重ねて懐かしくなったり、「ウルトラマリン隊」のメンバーがそれぞれ辿った運命について考えてみたり、「たくさんの喜びとたくさんの悲しみを全部抱えたままで死にたい。」という言葉に共感したり…。
最初に否定的な事を書いてしまいましたが、本当はとても良い物語だったと感動して、今でも余韻に浸っているくらいです。
「詩的私的ジャック」 森博嗣
この小説は、森博嗣先生の作品の中でS&Mシリーズと呼ばれている、
大学生の西之園萌絵ちゃんと犀川先生のコンビが事件を解決するミステリー小説です。
私がS&Mシリーズの中で読んだ事があるのは、
この「詩的私的ジャック」と、「すべてはFになる」の2冊だけです。
どちらも犯人の犯行動機がハッキリ分からないミステリーでした。
今回読んだ「詩的私的ジャック」では、篠崎敏治という、つかみどころのない登場人物がとても印象的でした。
彼は、前半何を考えているのか分からない怪しい人物なのですが、
後半、「なんてピュアなひとなんだろう!」と感動させられる人物です。
そして、大学生の萌絵ちゃんは一途で可愛らしく、事件を解決する犀川先生は少し風変わりです。
犀川先生の発言は、作者の森博嗣先生の考え方をそのまま反映しているようなところがあり、
事件の謎解きの場面で
「動機なんて理解できない。」とか、
「こんな欲望は言葉に還元できない。」とか言っちゃいます。
こんな調子だから犯人の犯行動機も分からないままなのですが、
それらの言葉は私にはとてもリアルに感じられました。
私にとってこの小説を面白いと思う理由は、リアルな犀川先生の言葉の中にあるのかもしれないなと思いました。