Mayのブログ

読んだ本についての感想など。

「受験脳の作り方」 池谷裕二

「受験脳の作り方」。
なんとも気になるタイトルの本があったもんだと思いました。

けれども私がこの本を読んだきっかけはタイトルに惹かれたからではありません。

この本の著者さんの、他の本を何冊か読んだ事があって、その内容がとても分かりやすく読みやすかったからです。

そしてこの本もそうです。

タイトルから連想するような、
「受験を上手く乗り越えるための画期的な方法」が書いてある訳ではありませんが、
「記憶を定着させるためには脳科学ではこうすると良いと考えられている」というような、間接的な形で受験に役立つ内容です。

学生さんから寄せられる質問に著者さんが答えるコーナーがあったり、受験には関係ない脳の仕組みについての解説などもあったりします。
例えば、

人は何故恋をするのか?

というものです。
私にとってはなかなか興味深い内容でした。

そしてちょっとびっくりしたのは、この本の著者さんが、掛け算の九九を覚えていないという事です。

足し算と引き算で掛け算の答えを導き出すのだそうです。
そんな人でも…と言うか、そういう人だから脳科学者さんになったのかな?と、思いました。

この本は、受験に限らず日常生活にも役立つ事が書いてあるので、私でも楽しく読み進める事ができました。

「豊穣の海」 三島由紀夫

今年は三島由紀夫さんが亡くなってから、ちょうど50年たちます。

そういった想いもあって、この本の感想を書いてみたいなと思いました。

第一巻から第四巻までのこの長い物語は、本田繁邦という人物が、人生をかけて見つめる「転生」の物語です。

第一巻「春の雪」は
爵位を持つ人達の暮らしぶりが描かれています。
庶民の私から見て、今の日本とはかけ離れた
「一体どこの世界の話ですか?!」
と、思える程の優雅な暮らしぶりです。

けど、そんな暮らしをしている人は、やっぱり生きる事に対して甘いんだなあという感じがしました。
登場人物である20歳の若者は、悲恋のうちに亡くなるのです。

この巻の中で私が1番印象に残ったのは、美しい恋人同士が人力車で雪見見物をする場面です。

私にこんな経験があったとしたら、それを一生の思い出として大切にできる程の美しい場面だと思いました。


第二巻「奔馬」は、古い時代の精神を捨てきれず、世の中の腐敗を見過ごせない若者の物語です。

今の日本人には無駄にしか思えない精神ですが、彼の真っ直ぐな生き方は、清々しく美しいです。
とはいえ、そこまで頑張らなくてもいいのでは?…と、思いました。


第三巻「暁の寺」は、なんだかよく分かりませんでした。

タイのお姫様のお話なのですが、彼女の個性が見られないからです。

それより、彼女の国にまつわる仏教について深く考えさせられる内容でした。


第四巻「天人五衰」は、長い物語の終わりを告げるような内容です。

これまでの内容が現代の日本からかけ離れているのに対して、いかにも現実的で登場人物の若者の酷薄さが目立ちます。


この、第一巻から第四巻までの長い物語を通じて私が思った事は、三島由紀夫さんは少し変わった方だなあという事です。
けれども、この作品をキッチリ書き終えてから自決に向かった生真面目さには好感がもてます。
自決するような人が書いた作品には思えませんでしたけど。

「運のつき」 養老孟司

解剖学者、養老孟司先生の本です。

この本は、先生が解剖学者になった経緯や、ご自身の経験、普段考えてる事などについて書いてあります。

解剖学者は言うまでもないなく死体を解剖する仕事です。

そうなると「死」は遠いものではなく、日常的なものになるみたいです。

私などは「死体」は怖いと考えがちですが、
誰でも必ず死ぬ訳ですし、私自身も必ず死体になるのです。
たとえ明日死ぬ事になったとしても、早いか遅いかだけの違いで、大した事ではないのかも…と、考えを改めさせられました。

養老孟司先生は、昭和33年、東京大学医学部に入学されてから教授となり、28年間ずっと大学に通われていたそうです。
そして、大学では全共闘運動を経験し、その事を今でもずっと考えてると書いてありました。

それは、先生について私の持っていた「不要なものをバッサリ切り捨てる方」というイメージを変えさせるものです。

日常を選ぶ事、対象ではなく方法を選ぶ事、気になる事は長い間ずっと考えてしまう事などから、養老孟司先生は真面目な方なのかもしれないと思うようになりました。
そして、つくづく虫が好きなのだなあ…と。(^^)

この本に書いてある事は、ちょっと哲学的です。
読んでる最中は納得していても、じゃあそれを説明しようとなると、それはちょっと難しいなあと思いました。

「つんつんブラザーズ」 森博嗣

この本は、森博嗣さんの100のエッセィが詰まった本です。

文庫書下ろしなので、ちょっとだけ最近の話題かな?…みたいな…、例えば、「老後資金二千万円問題」や、「1人で死ねばいいのに問題」などについて書いてあったりします。

他には、
「毎日RITHというお菓子を食べている」みたいな、どうでもいい話、

また、
「『自分』とはどういう意味なのか?」と、いった、難しい問いかけのような話題もあります。

読みながら、「目からウロコだ!」と、思ったり、「私もそう思うわ…。」と、思ったり、「それはちょっと違うのでは…?」など、いろいろな事を思ったりします。

でもやっぱり、「森博嗣さんは面白い事を思いつく人だなあ。」と、いうのが1番に思う事です。

エッセィに限らず、小説でも何でも、本を読んでいて度々思う事は、作家さんの魅力が文章の中に溶け混んでいるなあ…と、言うことです。

この「つんつんブラザーズ」は、森博嗣さんという作家さんの魅力が特に濃く溶け混んでているような感じのする本です。

「ほろにがいカラダ」 藤堂志津子

この本は「桜ハウス」という作品のシリーズです。
と言っても、それぞれ独立したストーリーなので、前作を読んでいなくても楽しめます。

登場人物は「桜ハウス」に住む女性達です。
それぞれ年齢はバラバラで、独身やシングルマザー、バツイチなど、生き方もさまざまです。

この本は、そんな女性達たちの、それぞれの恋愛ドラマで構成されています。

この、「桜ハウス」の大家である蝶子さんは50歳の女性です。
12歳年下の既婚男性と、かなり特殊なお付き合いをしています。
そんな蝶子さんの恋愛ドラマは切ない結末を迎えます。
そして蝶子さんは、その恋愛話を誰にも話さず、美味しいゴハンを作ってはそれを食べたひとに、
「嬉しい。大好き。」と、言われる事に癒されているのです。

私は、そんな彼女の気持ちが切ないくらい分かります。

「桜ハウス」に住む女性達は、みんな変わった恋愛をしています。
熟年の恋愛ごっこやセフレのような関係、そして不倫です。
その割に、恋愛ドラマにありがちな、感情的な描写は少ないです。

本書もそうなのですが、この作者さんは、どこか物事を俯瞰しているような作品が多く、
そんなところが私にはとてもしっくりくるのです。
f:id:jyunko5jyunko5:20200923103028j:plain

「ついに、来た?」 群ようこ

この本は、8つの短編からできている本です。

全て親の介護をする娘目線のエピソードであり、なかなか感慨深いものがありました。

最初の短編「母、出戻る?」は、53歳の母親が、家出をして好きな男性の所へいってしまうという仰天のエピソードです。

2つ目の短編、「養父、探す?」は、優しかった養父が老齢になり、認知症の症状がでてくる話です。

3つ目、「母、歌う?」は、歳をとって健康でいられるのは大切だなあと実感させられる話です。

4つ目、「長兄、威張る?」は、複数の人達で介護を分担する話で、
5つ目、「母、危うし?」は、離れて暮らす主人公の母親が、悪い人に騙されかける話です。

6つ目、「叔母たち、仲良く?」では、老齢である主人公の叔母さん2人についての話。
架空の豆の煮物の事でケンカをする2人の叔母さん達が、なんだか可愛いなあと思いました。

7つ目、「母、見える?」では、夫に浮気の上離婚され、反抗期の息子と認知症になり始めた母親を持つ女性の話。
息子に「くそばばあ」と言われ、「ばばあではあるが、くそではない。」と冷静に反論するこの女性は偉いなあと思いました。

最後、8つ目の「父、行きつ戻りつ」では、現役で働くしっかりものの男性が、老齢でちょっとおかしな行動をとるようになる話。
2人の娘さんや会社の部下の人たちが、男性に気を遣いながらあたふたと対応する所が面白く、ほっこりするところがありました。

全編を通して淡々と語られていて、重くなりがちな介護の話を面白くさせているところが、流石、この作者さんだなあ、と、思いました。

私も、自分が介護する側になってもされる側になっても、優しい気持ちを忘れないでいられたらいいなあと思いました。

魔が解き放たれる夜に メアリ・ヒギンズ・クラーク

数日前の事ですが、アメリカの作家、メアリ・ヒギンズ・クラークさんの訃報が届きました。
92歳でした。

「サスペンスの女王」と呼ばれ、多くの作品を世に残した方です。

この「魔が解き放たれる夜に」という作品もそのうちのひとつです。

この物語の主人公であるエリーは、姉を殺した殺人犯の仮釈放を阻止しようとします。

それは誰もが無理だと言い、エリー本人ですら無理だと思っている事です。

でも、彼女はやらない訳にはいかないのです。
その犯人はとても凶悪で、世に出てきたらまた誰かを傷つけるに違いないと考えられるからです。

果たしてエリーの考えは合っているのか?
殺人犯を追い詰める事ができるのか?
…てなところがこの本の読みどころかなと思います。

そして、何者かに命を狙われるエリーには最後までハラハラさせられます。

メアリ・ヒギンズ・クラークさんは、
読者をどんどん物語の中に引っ張っていき、最後まで飽きさせない事のできる作家さんです。

この作品では、エリーの頑固さもまた読みどころかなと思います。
ヒギンズ作品では初めての一人称だそうですが、それは、読者に主人公の気持ちを身近に感じて欲しいという、作者の思いからかもしれません。

エリーは一見、頑固で無謀な事をするように見えますが、子どもの頃の後悔や、家族がバラバラになった悲しさ、卑劣な犯人に対する怒りなどを身近に感じられると、彼女の行動も理解できると思います。

メアリ・ヒギンズ・クラークさんの作品を読んでいていつも思う事なのですが、ヒロインはみんな、綺麗だったり聡明だったり、素敵だったりカッコ良かったりする大人の女性です。
でも、近寄り難い印象はなく、どこか親近感が持てます。
そして「こんな友達がいたらいいなあ。」と、感じさせるのです。

ヒギンズさんもきっと
まわりの人間に対して、優しい気持ちで暖かく接しておられた方なのだろうなあ…と、思いました。

改めて、ご冥福をお祈り致します。